月影の入り江に眠る罪と愛

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官能小説
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第九章 絡まる運命

入り江から町に戻った夜、アキラとミサキは灯台で再び航海日誌を読み返す。あの入り江が事件の現場であったかもしれないという確信が強まり、次の一手をどう打つかを考えなければならない。  だが、外では低くうねる風音が響き、灯台の窓をガタガタと揺らしている。まるで誰かが扉を叩いているかのように錯覚するほど不安を煽る音だ。 「どうする……? 警察に話をしても、確証がないままでは動いてくれないかもしれない」 「そうだね。でも、誰かが私たちを探ってるような気配がする。あの車や足音……今回の密輸組織の関係者が私たちの行動を警戒しているとしたら……」  アキラの言葉に、ミサキは怖さと使命感が同時に込み上げる。灯台守として町の海を守っているという自負と、アキラを助けたいという私情がせめぎ合い、理性を保つのが難しくなっていた。  静まり返った宿直室の明かりだけが、頼りない光源となっている。二人は外の暗闇に潜む脅威を感じながら、やがて視線を交わした。  そのとき、ミサキのスマートフォンに不明な番号からの着信が入る。出ると無言のまま、風の音だけが聞こえ、すぐに切れた。 「……脅しのつもりかな」  アキラが険しい表情で呟く。ミサキも胸がざわつくが、ここで退いてしまえば弟の真相は永遠に闇の中だ。自分たちが進んだ先にどんな危険が潜もうとも、いまや後戻りはできないと感じていた。  その夜、二人は少しでも相手を近くに感じたいという思いで、自然に寄り添った。体温を確かめ合うように見つめ合い、言葉を交わさずに唇を重ねる。静かでいて濃密な時間が、灯台の小さな世界に満ちていく。官能の影が深まるほど、二人の心は寄り添い、同時に危険な闇が迫っているのを肌で感じ取っていた。


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