ジャンル:
官能小説森の薄暗い小道を抜け、なんとか広い道に出たときには、もう明け方に近い青白い空が頭上に広がっていた。男たちの足音は途中で途切れたが、油断はできない。 アキラはスマホを握りしめ、撮影データを確認する。 「証拠は撮った。警察に持ち込めば、組織の一端を明るみに出せるはずだ。そうすれば弟の……真実に近づけるかもしれない」 ミサキは疲労困憊ながらも頷く。 「でも、あの男たちの規模を考えると、警察がどこまで動いてくれるか……それに、万が一わたしたちの身元が割れたら」 「大丈夫、君を危険な目には合わせない。俺が何とかする」 その言葉は頼もしい反面、現実味が薄い誓いでもあった。だが、ミサキは彼の強い瞳に支えられるようにして自分も前に進もうと決意する。 夜が明けて完全に朝になる前に灯台へ戻った二人は、疲れ果てながらも互いの存在を確かめ合うように抱き合った。あれほど走ったというのに、不思議と胸の鼓動が落ち着かない。まるで手を繋いだまま、暗い海を泳ぎ続けているようだった。 理屈ではなく、感情が先に走る。どちらからともなく唇を重ね、激しく互いを求めた。汗ばむ肌と肌が触れ合い、夜明けの光が宿直室のカーテンの隙間から薄く射し込む。 広大な海を照らすために建てられた灯台。その中で交わる二人は、心の奥底の孤独や恐れを埋め合わせるようにひとつになろうとしていた。乱れる呼吸、熱くなる血潮……官能の果てで、互いの存在に溶け合いたいと切望しながら、やがて静寂に沈んでいく。 嵐の前の凪のような時間が過ぎ、現実に引き戻されると、二人は互いの目を見つめあい、どちらともなく微笑んだ。あるいはこれが最後の安らぎかもしれない――そんな予感が、胸の奥で警鐘を鳴らしていた。