月影の入り江に眠る罪と愛

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官能小説
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第十二章 闇への潜入

夜半過ぎ、二人は人目を避けるように町外れの倉庫へ忍び寄った。浜辺から続く裏道を使い、音を立てないように進む。雲間からの淡い月光と、遠くにある街灯の明かりだけが足元を照らす。  倉庫は錆びたトタン壁に囲まれ、中から男たちの押し殺した声が聞こえる。ドアの隙間からそっと覗き込むと、大きな木箱がいくつも積まれており、中身は海外ブランドの高級酒やタバコだろうか――見るからに密輸品のようだ。  アキラはスマートフォンのカメラを起動し、証拠動画を撮る。男たちが箱をトラックへ積み込み、奥へ運んでいく姿が映し出される。誰にも見つからないように、息を潜め続ける緊張感が肌をピリピリと刺激する。  そのとき、一人の男が電話をかけながら外へ出てきた。 「今夜出航の船に全部積む。残りの在庫は“あの入り江”で一度下ろして検品するらしい。面倒だが上の意向だからな……」  アキラとミサキは顔を見合わせる。「あの入り江」とは、まさに月影の入り江だ。弟もこの闇取引に近づいたことで命を落としたのかもしれない――その疑念がより一層強まる。  男が立ち去ったあと、アキラはミサキの耳元でささやく。 「これを警察に提出しよう。奴らが入り江で動くタイミングを狙ってもいい」 「そうね……でも、ここに長居は危険よ。早く戻りましょう」  二人は隙を見て静かに倉庫のそばを離れようとするが、不意に懐中電灯の光が背後から二人を捉えた。 「誰だ、そこにいるのは!」  声が響く。咄嗟に身を伏せるものの、男たちがこちらへ走ってくる気配がある。追いつかれれば逃げ場はない。  ミサキの手を掴んだアキラが「走れ!」と叫ぶ。夜の漁村を全速力で駆け抜け、灯台とは逆方向の森のほうへ逃げ込む。背後から複数の足音と罵声が追いかけてくる恐怖に、ミサキは呼吸が上手くできないほど心拍数を上げていた。


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