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SFニュートラルゾーンの暗い路地裏、そこには医療機器が所狭しと並べられたシンイチの診療所があった。そこに訪れる患者たちは、合法的な医療を受けられない者たちばかりだった。シンイチ自身も、その環境が生み出した矛盾の象徴のような存在だった。 この日、診療所には昼夜を問わず患者が押し寄せていた。サイボーグ化した少年は、戦争で片腕を失い、自作の義手に不具合を抱えていた。視覚を失った老人は、違法な薬物実験の被害者で、再び光を取り戻すための治療を切望していた。そして、違法な臓器移植を望む犯罪者は、裏社会での逃走劇で致命傷を負い、命をつなぐために最後の賭けに出ていた。それぞれの物語がこの狭い空間に渦巻いていた。 しかし、その中でも異質な患者が現れた。黒いフードを深く被った男だった。彼は短い言葉だけを口にした。「これを見てくれ。」 男が手渡したのは光るデータチップだった。そこに保存されていた映像は、未知の技術を用いて改造された人間の体組織を示していた。それは異星文明の影響を受けたものであり、合法的な研究機関では到底取り扱えない代物だった。シンイチは警戒心を抱きながらも、その技術に興味をそそられてしまった。「これがどうした?」と問いかける彼に、男は言葉を濁し、去っていった。 その後、診療所に微妙な緊張感が漂い始めた。まるで周囲に監視の目が潜んでいるかのようだった。シンイチはその夜、窓越しに見える星空を見上げながら、自分の選択が正しかったのかを考えていた。医者であることと、技術への興味、その間で揺れる彼の心は、やがて次の嵐を呼び込むことになる。