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SFニュートラルゾーンの片隅、闇医者シンイチの隠れ家には異様な静けさが漂っていた。外壁には長年の汚れが染みつき、廃棄物が散乱した小道にひっそりと隠れている。内部は薄暗く、古い機械の音が絶え間なく響き、生命維持装置や解析装置のランプが断続的に点滅していた。シャッター越しに漏れる人工光のかすかな明かりが、ミユの顔を青白く照らしている。彼女の体内のナノマシンは不安定な状態が続いており、シンイチは日夜その制御に追われていた。 その日、シンイチが調整用のデータをコンソールに入力していると、突然、隠れ家のセンサーが異常を示した。外部からの侵入者を知らせるアラートが鳴り響く。 「連邦の連中か?」 シンイチは警戒を強めながら、隠れ家の監視カメラを確認した。映し出されたのは、一人の若い女性だった。全身は薄汚れた服に覆われ、手には大きなツールケースを握っている。その姿は明らかに兵士でもエージェントでもない。 「シンイチ…この人、誰だろう?」 ミユがモニターを覗き込む。 「侵入者にしては随分と大胆だな…」 シンイチは軽く舌打ちをすると、玄関のロックを解除した。 ドアが開くと同時に、女性が勢いよく中へと飛び込んできた。 「助けて!連邦のドローンが追ってきてる!」 その声には緊張感があり、シンイチは彼女の後ろから迫る音に気付く。遠くから機械の駆動音が近づいてくるのが聞こえた。 「中に入れ!」 シンイチは彼女を引き入れると、すぐにドアを閉めてセキュリティを再起動させた。壁越しに爆発音が響き、連邦のドローンが隠れ家を発見したことを物語っている。 「おい、お前は何者だ?」 シンイチは女性を睨みつけた。 「私はリナ。技術者よ。廃棄された連邦の研究所を漁ってたら、こいつらに目をつけられたの。技術屋の宿命ってやつね。古い機械を直したり、改造したりするのが好きでね。それがいつの間にか、連邦の秘密プロジェクトに足を踏み入れる羽目になったわ。」 彼女がツールケースを開くと、中から奇妙な機械装置が現れた。それは古びたが高性能な分析装置で、見ただけでシンイチの興味を引いた。 「その装置、何に使うんだ?」 「これ?次元間エネルギーの波動を解析するプロトタイプらしいわ。どうやら連邦の極秘プロジェクトの一部みたいだけど、私も詳しいことは知らない。」 ミユがリナをじっと見つめた。 「この人…悪い人じゃなさそう。」 シンイチは一瞬考え込むと、ため息をついた。 「仕方ない、ここにいるなら手伝ってもらうぞ。その装置、役に立つかもしれない。」 リナは驚いた顔をしたが、すぐに微笑んだ。 「わかった、あなたたちに借りを作ったみたいね。」 その数時間後、隠れ家の一室では、リナがその腕前を見せていた。彼女は持ち込んだ装置を改造し、連邦のドローンの信号をジャミングする機能を追加した。シンイチも手を貸したが、その技術的な知識に驚きを隠せなかった。 「リナ、このジャミング装置、本当に機能するのか?」 シンイチが尋ねる。 「試してみれば分かるわ。」 リナは自信たっぷりに微笑むと、コンソールのボタンを押した。すると、隠れ家周辺を飛び回っていたドローンが次々に制御を失い、地面に墜落していった。 「すごい…!」 ミユが歓声を上げる。 「これでしばらくは安全だ。」 シンイチは頷いた。 リナは額の汗を拭いながら言った。 「これくらい朝飯前よ。私にかかれば、ドローンどころか宇宙戦艦だって片付けられる…なんてね。でも、連邦はこんな簡単には諦めないわ。ここにいる間、私も戦力として役立つつもりよ。」 シンイチはリナに感謝の意を込めて言った。 「頼りにしてる。これからはチームとして動こう。」 その日、彼らは新たな仲間を得た。リナの登場は、シンイチとミユの運命を大きく変えるものとなるだろう。その技術と勇気が、銀河を揺るがす陰謀の核心を暴く鍵となることを、彼らはまだ知らなかった。