影の熱

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日常
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第六章: 崩壊の始まり

地下へと続く階段は冷たく湿っており、和樹の足元に不安を感じさせる。下に降りるにつれ、空気が重くなり、まるで地下室の奥深くに隠された秘密が彼を待っているようだった。麗子の後を追いながら、和樹は心臓の鼓動が速くなるのを感じていた。 「あなたが今、踏み込んでいる場所。」麗子が低く呟く。「ここは、私がずっと守ってきた場所。表の世界では決して知られない、裏の世界。私が生きてきた証。」 和樹はその言葉に身を震わせながらも、目の前に広がる暗闇に引き寄せられていた。麗子は何を隠しているのか、そしてその秘密がどれほど危険であるのか、和樹はまだ完全には理解していなかった。しかし、彼はすでにその世界に足を踏み入れてしまっていた。後戻りはできない。 地下室の扉が重く閉まる音が響き、麗子は振り返り、和樹に向かって言った。「覚悟はできてる?」 その問いに、和樹は短く頷いた。だが、その答えは自分の心に確信を持たせるものではなかった。彼の中にある恐怖と好奇心が入り混じり、どうしても心の中の混乱を整理できずにいた。 麗子は静かに歩を進め、和樹もそれに従った。地下室の中は、想像以上に広かった。そこには、古びたテーブルと椅子が並べられ、壁には無数の書類と資料が散乱している。すべてが荒れていて、時間の流れを感じさせた。だが、最も異様だったのは、中央に置かれた一台の金属製の機械だった。それは、和樹には見覚えのないもので、どこか異質な雰囲気を放っていた。 「これが、私がずっと関わってきたもの。」麗子はその機械を指差しながら言った。「ここで行われていたことは、外の世界では決して許されないことだ。しかし、それを知ってしまったあなたが今、私と共にその真実を見なければならない。」 和樹はその言葉に、言い知れぬ恐怖を感じた。しかし、同時にその恐怖が彼を引き寄せていることも確かだった。彼はこの瞬間に何かを決断しなければならない。その先に何が待っているのかを、知りたくてたまらなかった。 「これが何なのか、教えてくれ。」和樹は声を絞り出すように言った。 麗子は静かに頷き、機械の前に立った。「これが、私が関わっていたプロジェクトの核心。私はただ一人の手で、これを動かすことができる。」 その言葉に、和樹は胸が締めつけられるような感覚を覚えた。この機械がどれほど危険なものであるのか、今すぐにでも理解したいと思った。しかし、麗子はそれを簡単に明かすことなく、さらに続けた。 「この機械は、人々の記憶を操作するためのもの。過去を変えることができる、そして未来をも操ることができる。私が今までやってきたこと、すべてがここに関係している。」 和樹はその言葉に呆然とし、理解できない思いに囚われた。記憶を操作する?過去を変える?そんなことが可能だというのか。信じられなかった。しかし、麗子の目を見つめるうちに、彼女が言うことが嘘ではないことを、和樹は感じ取った。 「あなたが言っていることは、現実なのか?」和樹はついに口にした。彼の声は震えていた。 「現実よ。」麗子は冷たく言い放った。「すべての力を手にした者が、未来を握る。あなたも、私と同じようにそれに関わることになる。」 その瞬間、和樹の心の中に、破滅的な予感が走った。麗子が言う「力」とは、単なる力ではない。それは人々の運命を、無慈悲に操る力なのだ。彼が今、選ぼうとしていることが、どれほど危険で、そして絶望的であるのかを、彼はまだ完全には理解していなかった。 麗子は和樹をじっと見つめ、言った。「この世界で、力を持たない者は、ただの駒に過ぎない。あなたがこの先、どう生きていくかは、この機械にかかっている。」 和樹はその言葉に衝撃を受け、心の中で何かが崩れ落ちるのを感じた。彼はもはや、この場所から逃げることはできない。彼の運命は、麗子と共にこの世界の闇に飲み込まれていくしかないのだろうか。 「私と共に、この力を手に入れる覚悟があるか?」麗子の問いに、和樹は一瞬、答えを見失った。 その時、和樹の胸に湧き上がったのは、恐怖だけではなく、支配されることへの興奮だった。彼はその力を手に入れれば、自分の人生がどう変わるのかを知りたかった。だが、彼が選んだ道が、どれほど危険で破滅的であろうとも、その先に待っている真実を知ることが彼にとって唯一の望みだった。 「覚悟はできている。」和樹は静かに答えた。 その言葉が、二人の運命を決定的に変える瞬間だった。


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