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日常和樹は麗子に導かれるまま、暗い廊下を進んだ。心臓の鼓動が激しく鳴り響き、息が浅くなる。彼女の後ろ姿は、まるで何かを知っているかのように落ち着いていて、その存在感が和樹の不安をさらに増幅させていた。麗子が足を止めた先には、重厚な鉄の扉があった。扉の前で、麗子は振り返り、静かに言った。 「この先に、あなたが知りたかったことがある。」 その一言に、和樹の全身が震えた。彼女の声には無駄な力がなく、冷徹な決意がこもっていた。和樹はその言葉の意味を理解しようとしたが、同時にどこかで感じていた警告を無視して、ただ一歩一歩踏み出した。 麗子は扉を開け、和樹を招き入れる。その部屋は予想以上に広く、天井まで続く本棚が整然と並んでいた。本棚には無数の本がぎっしりと詰まっており、それらの本はどれも古びていて、時が経ったことを感じさせる。しかし、その本の背表紙には和樹が見たこともないような、奇妙な文字が並んでいた。 「これは…?」和樹は思わず口にした。 「これが私の秘密の一部。」麗子は無表情で答える。「私が持っている知識、そして私が関わってきたすべてのこと。」 和樹は一瞬、息を呑んだ。部屋の隅には、さらに不気味な道具が並べられており、まるで何か儀式的なものを連想させるような雰囲気が漂っていた。だが、それがただの道具ではないことは、和樹にもすぐにわかった。全てが計算され、意味を持って配置されていることが、目に見えた。 「あなたが知りたかったこと。」麗子は和樹の目をじっと見つめ、「私があなたにしたこと、そのすべてがこの部屋に集約されている。」と続けた。「そして、この部屋にあるものが、私を動かす力なの。」 和樹はその言葉を聞きながら、次第に自分の足元が崩れていくような感覚を覚えた。麗子はただの美しい女性ではなかった。彼女は、自らの手で何かを築き上げ、それを守ってきた人間だった。その力は、和樹の想像を遥かに超えていた。 「あなたが知りたかったこと。」麗子は再び口を開き、「それは私がどんな人間なのか、そして私がどのようにこの世界と関わってきたのかということ。」と続けた。「私が何を隠してきたのか、そして、私がどんな取引をしてきたのか。」 和樹はその瞬間、彼女の言葉の意味を理解した。それは単なる過去の話ではない。この部屋、そして麗子の存在が、ただの偶然ではないことを確信した。彼女はただの謎の女性ではない。彼女は、何か大きな力と関わり、そしてその力の中で生きてきたのだ。 「私は、ある組織と関わってきた。」麗子の声が低く響く。「その組織は、表向きは無害に見える。だが、その裏で起きていることは、あなたが想像する以上に深刻で危険なことなの。」 和樹はその言葉に驚き、そして無意識に後退りそうになる。しかし、麗子はその手を軽く握り、彼を引き寄せた。 「怖がらなくていい。」麗子は和樹に語りかけるように言った。「あなたが踏み込んでしまったこの世界では、後戻りはできない。今更恐れても、もう遅いのよ。」 和樹は自分の体が動かないことに気づいた。彼は麗子の言葉に引き寄せられ、彼女が示す未来に進むことを決意していた。それは恐怖と好奇心が交錯する、理解しがたい感情だった。しかし、今更引き返せないことを和樹は本能的に理解していた。 麗子は冷たく微笑みながら、和樹に背を向けて本棚の一角に歩み寄った。その手が本棚の隠し扉を押すと、そこにはさらに奥へ続く階段が現れた。暗い地下のような場所に続くその階段は、まるで和樹を引き込むかのように誘っていた。 「さあ、行きましょう。」麗子の声が響く。「これがあなたが知るべき、全ての始まり。」 和樹はその言葉に従い、一歩ずつ地下へと足を踏み入れた。暗闇の中で、彼は何か恐ろしいものが待ち受けていることを感じながらも、その先に進むことを止められなかった。