影の熱

ジャンル:

日常

著者:

語りの灯火

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第二章: 闇の中での邂逅

麗子との出会いから数週間が過ぎた。和樹は彼女のことを、まるで暗闇の中でただ一点の光を探しているような気持ちで見つめていた。カフェの中での何気ない会話の中にも、麗子には何かしらの謎が漂っていた。彼女の話すこと、彼女の目線、そしてその沈黙の間にあるもの。すべてが和樹に強く印象を残した。

ある夜、和樹は仕事帰りにいつものカフェに立ち寄った。いつも通り、カウンター席に座り、コーヒーを頼む。しかし、その日、麗子はいつもの席にいなかった。和樹はそのことに一瞬だけ驚き、しかしすぐに冷静さを取り戻した。彼女はきっと、どこかに行っただけだろうと思い、コーヒーを静かに飲み干す。

だが、少し経ってから、カフェの入り口が開き、麗子が入ってきた。彼女は見慣れないジャケットを羽織り、顔に少し疲れた様子を浮かべていた。その目は、どこか遠くを見つめるような、深い考えに沈んでいるようだった。

「今日は遅かったですね。」和樹が声をかけると、麗子は少し驚いたように振り向き、そしていつもの冷たい微笑みを浮かべた。

「ちょっと、いろいろとね。」麗子の声は低く、どこか疲れたように響いた。

和樹はそれ以上聞くことはせず、しばらく黙ってコーヒーを飲みながら彼女を見守った。その静かな時間が、和樹には何故か心地よく感じられた。

「あなた、何か隠していることがあるんですね。」和樹はつい、思わず口に出してしまった。言った瞬間、自分でも驚いた。しかし、麗子はその言葉に反応を示さなかった。ただ目を伏せ、静かに息を吐き出す。

「あなたも、何かを隠している。」彼女の声は少し震えていたが、その目はどこか和樹を見透かすように鋭かった。

その言葉に、和樹は一瞬、心臓が止まるような感覚を覚えた。彼女の言葉がまるで、彼の中に隠していた何かを突き刺すようだった。それは、和樹が無意識に抱えていた孤独や、無関心に流されている自分自身への警告だったのかもしれない。

「そうかもしれません。」和樹はつぶやくように答えると、麗子は静かに立ち上がった。そして、無言でカフェの出口に向かって歩き出した。その姿は、まるで彼女自身が何かに引き寄せられるように、どこか目的地を持っているかのようだった。

和樹は思わず立ち上がり、麗子を追いかけようとした。しかし、その瞬間、彼女は振り返り、淡々とした表情で言った。

「あなたが追うものには、危険が伴うわよ。」

その言葉に、和樹は言葉を失った。麗子の目は、何か警告を発しているように見えた。しかし、和樹の心は既に彼女に引き寄せられていた。彼女の言葉の意味を理解しようとする間もなく、和樹は何故かその後を追わずにはいられなかった。

外に出ると、麗子はすでに通りの角を曲がり、姿が見えなくなっていた。和樹は一瞬、立ち尽くす。だが、何も考えずに歩き出すと、ふと彼女がどこに向かっているのか、どんな秘密を抱えているのかを知りたくなっていた。それが、彼の心の中で無意識に芽生えた欲望だった。

その夜、和樹は寝付けなかった。麗子の言葉が、頭の中でぐるぐると回り続けていた。彼女が隠しているもの、そして彼が知らずに抱えている闇。そのすべてが、和樹を引き寄せていた。


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