断ち切れぬ糸

ジャンル:

恋愛

著者:

語りの灯火

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第四章: 糸が絡まる時

光一と未希は再びつながりを取り戻し、少しずつ互いに心を開いていった。しかし、その過程で未希は次第に自分の過去に向き合わざるを得なくなった。光一との関係が深まるにつれ、未希は心の中で恐れていたことが現実になりつつあると感じ始めていた。彼女は、自分が再び誰かと深く結びつくことで、また傷つくのではないかという不安を抱えていたのだ。

ある日、光一は未希に少し戸惑いを感じるようになる。彼女は以前のように明るく、前向きな態度を見せることが少なくなっていた。何かが変わったのだと感じ、光一はその変化に気づくのが怖かった。未希が心の中で何を考え、どんなことを抱えているのかを知りたかったが、それを無理に聞くことができなかった。

「未希さん、どうしたんですか?」光一は心配そうに尋ねると、未希はその質問に少し驚いた様子を見せた。しかし、すぐに表情を引き締め、「何でもないんです。ただ、少し疲れているだけ。」と答えた。

その言葉に、光一はさらに不安を感じた。彼女は何かを隠している。けれど、光一は無理にその秘密を引き出すことができず、ただ彼女の隣にいることしかできなかった。

日々が過ぎ、未希はますます内向的になり、光一との距離を感じさせるようになった。光一はその変化を感じつつも、彼女の心を追い詰めたくないという思いから、少し距離を置いて彼女を見守ることに決めた。しかし、その距離がさらに未希の心に壁を作ることになった。

未希が家族に関する悩みを抱えていることを知ったのは、それからしばらく後のことだった。未希の母親が光一に明かしたのだ。「未希は、何年も前に両親を失ってから、自分を犠牲にして生きてきました。それが彼女の中で重くなりすぎて、誰とも深くつながれなくなっているんです。」

その言葉を聞いた光一は、未希の孤独と彼女が背負ってきたものの大きさを痛感した。彼女は無意識にその重荷を隠して生きてきたが、次第にその心の中で糸が絡まり始めていた。それが彼女を苦しめているのだと、光一は理解する。

そして、未希が何か大きな決断を下す日は、予感として心の中に感じていた。未希が自分に対して心を開くことができなければ、その関係はいつか終わりを迎えるだろう。それは、光一がどれだけ支えようとしても、未希自身がその痛みを乗り越えない限り、無理なことだと感じた。


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