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SF1. 導きのデータ カイルから渡された端末に表示された座標データ。それは、記憶共有ネットワークの最深部――「記憶の樹海」へのアクセス地点を示していた。 「記憶の樹海……そこに、リナのすべてがあるのか。」 イツキは端末を握りしめながら、次の行動を考えた。ネットワークの最深部に近づくには、政府の厳重なセキュリティを突破しなければならない。しかも、追跡者が迫っている以上、時間の猶予はない。 端末の地図が示す先は、都市の外れにある旧式のネットワーク研究施設だった。それは、記憶共有ネットワークが開発された初期段階の施設であり、現在では廃棄されたまま放置されている場所だった。 「ここで何が起きたのか……リナが見た真実を、俺も見つけてやる。」 2. 旧施設の秘密 施設は荒廃し、かつての賑わいを感じさせるものは何もなかった。天井からは剥がれた鉄骨が垂れ下がり、床には破損した端末や記録媒体が散乱している。 イツキは端末の指示に従いながら、施設内を進んでいった。やがて、古びた操作パネルが目の前に現れる。 「ここが……記憶の樹海への扉か。」 パネルの画面に触れると、電子音と共にシステムが起動し始めた。画面にはアクセスキーの入力を求める表示が現れる。 「カイルがこれを想定していたのか……」 イツキは、端末に保存されたコードを慎重に入力した。すると、目の前のモニターに青白い光が広がり、無数の記憶データが漂う空間が映し出された。 3. 記憶の樹海への接続 記憶の樹海は、文字通り無限の記憶が漂う森のような空間だった。光の粒が木の葉のように揺れ、風のような音がデータの流れを伝えている。その中で、イツキはリナの声を感じた。 「イツキ……ここにいるのね。」 彼は驚きながらも、画面を見つめた。その中に映るのは、リナの記憶の中の姿だった。彼女は、青白い光の中に佇み、穏やかな表情を浮かべている。 「リナ……俺はここまで来た。お前が守ろうとしたものを、見せてくれ。」 リナの記憶が再生され始めた。 4. リナの最期の記録 映像の中で、リナは記憶共有ネットワークの深部にいる。彼女はデータを解析しながら、何かに怯え、同時に強い決意を抱いていた。 「このシステムは……人々を救うためのものじゃなかった。これは、人々を支配するためのツール……記憶を改ざんし、本当の歴史を消し去るためのものだった。」 リナは、記憶の樹海のデータを操作しながら、政府の隠ぺいしていた真実に触れていた。そこには、過去に行われた非人道的な実験や、政府が意図的に引き起こした戦争の記録が保存されていた。 「こんなものを放置するわけにはいかない……でも、これを解放するには……」 彼女はモニターに映るデータを見つめた後、小さく呟いた。 「イツキ……これをあなたに託すしかない。」 5. リナの選択 リナの記憶が途切れた後、イツキは彼女が直面した葛藤を感じ取った。彼女は真実を守るため、自らの命を犠牲にして記憶をばら撒いた。その目的は、イツキがそれを拾い上げ、真実を解放することだった。 「リナ……俺は、お前の願いを無駄にしない。」 イツキは、再び端末を操作し、記憶の樹海の完全解放を試みた。その瞬間、施設内の警報が鳴り響く。 「……追ってきたか。」 政府の特殊部隊が施設内に侵入してきたのだ。 6. 最後の選択 イツキは端末を見つめながら、最終的な決断を迫られる。記憶の樹海を解放すれば、ネットワーク社会は崩壊し、人々は過去の真実を知ることになる。だが、それによって混乱と危機が広がるのは避けられない。 「どうすればいい……リナ……」 その瞬間、リナの声が彼の脳内に響いた。 「イツキ、記憶を受け入れることで人は自由になれる。たとえ痛みが伴っても、それが私たちの生きる道だから。」 イツキは目を閉じ、覚悟を決めた。彼は端末に最終コマンドを入力し、記憶の樹海を解放する準備を整えた。 「これが、俺たちの選択だ。」 特殊部隊が部屋に突入する直前、イツキは端末に手を伸ばした。