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ホラー著者:
語りの灯火
第三章 封鎖された道への入り口 出発当日。まだ日の高い午後、三人はレンタカーを走らせて町外れに向かった。畑道を抜け、さらに細い農道へ入っていく。雑草の生い茂った半ダート路面を進むと、やがて車では通れない場所に突き当たる。 「ここからは歩きだね」 車を降りた伊吹たちは、荷物を背負ってさらに奥へ。すると、木立が少し途切れた先に、朽ち果てたガードレールが見えた。そこには、かつての舗装が一部むき出しになっている。まさしく“道”の痕跡。 その脇には苔むした石の道標が立っており、辛うじて「幽路」と刻まれているのが読める。 「この道標……相当昔からあるみたいだね」 奈々がカメラを構えシャッターを切る。画面越しに見ると、古びた文字が奇妙な迫力を伴って迫ってくるようだった。 「噂通りの不気味さだな」圭介はボイスレコーダーを回し始める。 伊吹は腕時計を確かめる――15時24分。まだ日が高いはずなのに、木々の陰が濃く、まるで夕暮れが迫っているかのような薄暗さを感じる。 廃道の入り口に立った瞬間から、まるで別世界の入口に足を踏み入れるかのような不安感が増してくる。 第四章 廃道を進む異様な気配 舗装は途切れ、雑草や枯れ葉に覆われた道を三人は慎重に進む。すでに背後の風景は森の木立に覆われ、外界から遮断された小径を歩んでいるようだ。 「なんか肌寒い……」奈々が薄手のパーカーのジッパーを引き上げる。 実際の気温はまだ夏の終わりで暑いくらいなのに、なぜか周囲は冷え込んでいる。鳥のさえずりも虫の鳴き声も、距離感が狂ったように遠く、あるいは耳元で反響するように聞こえる。 やがて、遠くにコンクリートの壁のようなものが見えてきた。どうやら噂の廃トンネルらしい。入口付近には赤茶色に錆びついた鉄柵が倒れており、倒壊しかけた「立入禁止」の看板が横たわっている。 「やっぱり本物みたいだな」圭介が柵をまたぎながら言う。 伊吹は周囲を見回すと、まるで圧迫感を伴った風がトンネルから吹き出してくるのを感じた。冷たい空気が肌を刺し、背筋に鳥肌が立つ。 同時に、なぜか視界の端に白い影がちらついた気がした。思わず振り向くが、そこにはただ苔むした壁面があるだけ。 「気のせい、か……」 声に出して自分を納得させようとするが、その直後、圭介が言った。 「今、誰かいなかった? こっちを見てるような……」 伊吹は、ゾクリとする。やはり見間違いではなかったのだろうか。