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ホラー著者:
語りの灯火
第一章 廃道「幽路」の噂
「ねえ、知ってる? この辺に地図に載っていない廃道があるんだって」
大学四年生の伊吹(いぶき)は、卒業論文のテーマを探している最中に、友人から妙な噂を耳にした。もともと熱心に集めていた心霊スポットや都市伝説の情報の中でも、その廃道は突出して奇妙な存在感を放っていた。
なぜなら、その道は「本来、地元と隣町を繋ぐ国道の支線になるはずだったが、建設途中で放棄された」という。しかも、一部の古い地図にはかすかに記載されているが、今はもう地図から抹消されているというのだ。
決定的に不気味なのは、そこに設置されていた古い道標に彫り込まれた文字――「幽路(ゆうろ)」。噂では「この道に足を踏み入れた者は戻れない」「戻れても別人になっている」と囁かれている。
伊吹の研究テーマは「都市伝説の社会的影響」。彼はほかにも数多くの怪異譚を集めていたが、この「幽路」という名前には不思議と胸をざわつかせる響きがある。
「これはただの噂か、それとも……」
卒業論文のネタにもなるし、廃道という実在する(らしい)場所を直接調査できるチャンスはそう多くない。伊吹は、現地調査を決意する。
第二章 探索メンバーの素顔
実際に現地へ赴くにあたり、伊吹は信頼できる仲間を誘うことにした。
ひとりは、オカルト好きの友人・圭介。高校時代からUFOや心霊などに強く興味を示し、オカルト雑誌の編集部への就職が内定している。ノリは軽いが、こういう危険な探索にはいつも積極的だ。
もうひとりは、カメラ片手に廃墟巡りを趣味とする奈々。インスタやブログで独特の写真を投稿しており、フォロワーからの反応も上々だ。彼女は過去にいくつかの廃墟スポットへ一人で出向くほど行動力がある。
「もし本当に異界みたいなところなら、おもしろい写真が撮れそう」
奈々はそう言って微笑むが、その瞳には興奮と不安が入り混じった色が浮かんでいた。
圭介も「記事にできるかもな」と意気揚々としている。
伊吹は、彼らと共に「幽路」の詳細を調べ始めた。地元の図書館や町役場の郷土資料室、さらにネット上に転がる断片的な情報を繋ぎ合わせる。すると、どうやら町の外れに建設途中の廃トンネルがあるらしい。そこに至るアプローチ道が、いわゆる“廃道”として放置されているようだ。
しかし、その場所について地元の住民に尋ねても、誰もが否定や口を濁すばかり。「若い人は行かないほうがいい」と忠告する人もいれば、「そんな道、知らない」と目をそらす人もいる。
人々の態度からは、単なる危険地帯以上の“何か”があるように感じられた。
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