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日常三が日も終わりに差し掛かった夜、陽平はリビングでぼんやりとテレビを眺めていた。内容もよくわからないバラエティ番組の笑い声が、ぼんやりした意識に遠く響いている。隣では、妻の美咲が湯呑みを手に取って静かにお茶を飲んでいた。 「そろそろ生活リズム戻さなきゃね。」美咲がぽつりと言った。陽平は曖昧にうなずく。頭のどこかでは分かっている。明日には朝6時に起きて、いつもの通勤電車に揺られ、オフィスで仕事を再開しなければならないことを。 しかし、身体は正直だ。三が日の間、昼近くまで寝て、夜更けまでゲームをしていたツケが如実に出ている。ベッドに入る気にもなれず、無為に時間が過ぎていく。 「生活リズムを戻すってさ、簡単そうに聞こえるけど難しいよな。」陽平は苦笑いを浮かべながら言った。「そうね。でも、戻さないと明日辛いのは自分だから。」美咲は淡々と答える。その冷静さに、陽平は少し苛立ちを覚えた。 テレビの画面が切り替わり、健康番組の再放送が始まった。「生活リズムを整えることで、ストレス耐性や体調が改善します!」と明るい声が語りかけてくる。映像には、朝日を浴びて笑顔でストレッチをする人々が映し出されている。 陽平はリモコンを手に取り、画面を消した。「言うは易し、だよな。」美咲は肩をすくめると、「じゃあ、カーテン開けて朝日浴びてみたら?」と冗談めかして言った。 その瞬間、陽平の頭に妙なアイデアが浮かんだ。「じゃあ、今のうちに外で朝日浴びる準備しないか?」「え?」「三が日最後の夜だし、夜明けを待つんだよ。ついでに、リズムも直しちゃおう。」 美咲は驚きの表情を浮かべたが、少し考えてから微笑んだ。「それ、案外いいかもね。」 二人は厚着をして、近所の公園へ向かった。空気は肌を刺すように冷たく、霜で白く染まった木々が静かに佇んでいる。陽平は手をこすり合わせながら吐く息が白くなるのを眺めた。 「ねえ、夜明けってすごいね。」陽平がポケットから手を出して息を吹きかけながら言った。「どうして?」美咲が聞き返す。彼女の声は凍える空気の中で柔らかく響いた。 「なんていうか……、リセットみたいな感じがする。今までぐちゃぐちゃだった時間が、一旦区切りをつけられるというか。」陽平の言葉に、美咲は微笑みながら空を見上げた。東の空に、薄いオレンジの光が少しずつ広がっていく。 「そうね。太陽ってそういう力があるのかもね。」美咲が言葉を紡ぐ間に、初めての陽光が木々の間から差し込んだ。その瞬間、2人の間に沈黙が流れた。 陽平はふと目を閉じて、朝の冷たさを感じた。「次の休みには、もっとちゃんとした生活リズムになっていたいな。」「じゃあ、これを新しいスタートにする?」美咲が提案する。 陽平は少し考えて、うなずいた。「いいかもな。それまでには、もう少しマシなリズムにしておかないとな。」 二人は新たな年の始まりを感じながら、静かに朝日を見つめていた。生活リズムの境界線を超えるための第一歩は、小さな行動から始まるのだと、陽平はぼんやりと思った。