バレンタインの約束

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日常
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短編小説:バレンタインの約束

―チョコとともに、家族の絆を深める― 「お母さん、今年もチョコ作るの?」 小学四年生の翔太が、キッチンに立つ母・美咲に問いかけた。 「もちろんよ。今年も一緒に作る?」 「うーん……チョコって女の子が作るものでしょ?」 翔太は少し気恥ずかしそうに、頬をかいた。 「そんなことないわよ。お父さんも、小さい頃はおばあちゃんと一緒に作ってたって言ってたわ。」 「……じゃあ、俺もやってみようかな。」 美咲は微笑みながら、翔太の手にチョコレートを渡した。 「それじゃあ、一緒に作りましょう。」 「お母さん、湯せんって難しいね。」 「大丈夫、焦らずゆっくりね。」 翔太は真剣な表情でボウルの中のチョコをかき混ぜる。 「ねえ、お母さん。お父さんって、バレンタインのとき、どんなチョコが好きなの?」 「そうね……甘すぎないビターチョコが好きかしら。」 「ふーん。じゃあ、俺も少しだけビターなチョコを作ってみようかな。」 翔太の手元には、ハートの型が並んでいた。 「お父さんのために?」 「……まあな。」 翔太は照れくさそうに鼻をこする。 美咲はそっと翔太の髪をなでた。 「きっと、お父さん喜ぶわよ。」 翔太は黙ってうなずいた。 夜、仕事から帰ってきた父・亮介は、テーブルの上に並ぶチョコを見て驚いた。 「これは……手作り?」 「お母さんと一緒に作ったんだ。食べてみてよ。」 翔太は少しそわそわしながら、父の顔を見上げた。 「おお、これはうまいな……!」 亮介は目を丸くしながら、ゆっくりと味わった。 「本当にお前が作ったのか?」 「もちろんだよ! でも、お母さんにも手伝ってもらったけど……。」 翔太が照れながら言うと、亮介は優しく微笑んだ。 「ありがとうな、翔太。お前が作ってくれたチョコ、最高だよ。」 「……よかった。」 翔太はほっと胸をなでおろしながら、にっこり笑った。 美咲は二人の様子を見ながら、そっとつぶやいた。 「来年も、また作ろうね。」 その夜、翔太はこっそり母の部屋へ行き、小さな包みを差し出した。 「お母さん、これ……。」 「え?」 美咲が驚いて包みを開けると、中には小さな手作りチョコが入っていた。 「お母さんにも、作ったんだ。いつもおいしいご飯作ってくれるし、俺のこといっぱい助けてくれるし……だから、ありがとうって言いたくて。」 美咲は思わず目を潤ませた。 「翔太……ありがとう。」 「お母さん、食べてみてよ。」 美咲はひとつ口に入れる。ほんのりビターで、でもどこか甘くて優しい味。 「すごく、おいしいわ。」 翔太はちょっと照れながら笑う。 「来年も、また一緒に作ろうね。」 美咲はそっと息子を抱きしめた。 「うん、約束だよ。」


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