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サスペンス著者:
語りの灯火
電車の中でスマホをいじっていた俺は、突然届いた通知に目を疑った。
「5分後、お前は事故に遭う」
発信元は……未来の俺?
悪質なイタズラかとも思ったが、胸の奥で警鐘が鳴る。もし本当なら? もし、これを無視して死んだら?
心臓がバクバクと鳴り始める。手汗が滲む。通知には続きがあった。
「右へ避けろ。そうすれば助かる」
訳が分からない。でも、この胸騒ぎはただ事ではない気がした。
俺はすぐに電車を降り、駅の階段を駆け上がった。踏切を渡る直前、再びスマホが震えた。
「あと10秒で車が突っ込んでくる。右へ飛べ」
その瞬間、視界の隅で異様な光景が飛び込んできた。
猛スピードでこちらに突っ込んでくるトラック。
ヤバい!
考えるより先に体が動いた。俺は全力で右へ飛び込む。耳をつんざく衝撃音。ガラスが砕ける音。人々の悲鳴。
……気がつくと、俺は地面に倒れ込んでいた。
無事、だ。
トラックは俺がいた場所に突っ込んでいた。通知の通りに動いたおかげで助かったのだ。
ホッとしたのも束の間、スマホが最後の通知を送ってきた。
「これで俺の役目は終わる」
画面を見つめていると、ふと気づいた。スマホの中の「俺」は、まるで何かが薄れていくように消えていく。
「お前が助かったことで、俺の存在は消える……でも、これでいいんだ。じゃあな」
最後の文字が消えると同時に、スマホは真っ黒になった。
未来の俺は……俺を助けるために、自らを消したのか?
胸の奥に広がるのは、救われた安堵と、言い知れぬ喪失感だった。
俺はスマホを握りしめ、ただ呆然と空を見上げた——。