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ミステリー江戸城の奥深く、月明かりが静寂を照らす夜。 その夜、江戸市中を震撼させる事件が起きた。将軍直属の家老が自室で無惨な姿となって発見されたのである。犯人の痕跡は皆無。密室の中で殺害された家老の周囲には、奇妙な手形の跡が残されていた。 市中では「妖怪の仕業か」「将軍の呪いではないか」と噂が飛び交う。だが、徳川吉宗こと暴れん坊将軍はそんな噂に惑わされることなく、冷静に事態を受け止めていた。 「この謎、余が解き明かさずしてどうする。」 この言葉の裏には、吉宗の胸中に秘めた葛藤があった。将軍として江戸の平穏を守るべき責任と、人として事件に潜む恐ろしさへの一抹の不安。しかし、平穏を乱す者を許さぬ決意が、その迷いを打ち消していた。 吉宗は早速、自ら変装して市中に繰り出すことを決意。おなじみの町人姿に身を包み、いつもの馴染みの顔ぶれ――影の右腕である忠実な忍び・佐助と、機知に富んだ女医・お蓮とともに調査を開始する。 第一の手がかり:怪しい薬商人 吉宗たちが市中を歩く中、薬商人が奇妙な「異国の薬」を売り歩いていることを知る。その薬には、気を失わせる力があるという噂があった。薬商人を問い詰めると、家老の屋敷に何度か出入りしていたことが判明する。さらに調べを進めると、薬商人は異国の交易路で手に入れたという薬を密かに売りさばいており、その一部を家老に提供していたことが明らかになった。「家老が密かに異国の医学を学びたがっていた」と証言する一方で、薬商人自身がその知識を利用して他の権力者との取引を画策していた可能性も浮上する。しかし、殺意については強く否定し、動機の真偽はなおも不明だった。 第二の手がかり:屋敷に残る奇妙な手形 家老の屋敷に潜入した吉宗は、壁の一部に微かな焦げ跡があるのを発見。その焦げ跡は手のひらほどの大きさで、縁が不自然に歪んでいた。吉宗はその場で跡に触れようとしたが、炭化した部分が脆く崩れ落ちた。「これは…何か特別な火力で作られたのか?」と吉宗は眉をひそめる。 お蓮がそれを詳しく調べ、「高熱で炭化したもの」と判明する。佐助はその形状を見て、「まるで火縄銃の火薬の爆発跡に似ているが、発射の痕跡が見当たらない」と指摘する。吉宗は焦げ跡の存在が偶然ではなく、何か重要な手がかりを示していると直感した。 真相の鍵:影の存在 家老が殺害された時間帯、彼の部屋には「影」が二つあったとの証言が近くの部屋の者から得られる。「月明かりの中、確かに二つの影が動いていた。しかし人影は一つしかなかった」。この証言に吉宗は閃く。 「この影、もう一つの影は…。」 衝撃の結末:将軍の裁き 事件の真相は、家老が密かに異国の技術で作らせた「鏡の兵器」にあった。特定の角度で光を集中させ、高熱で焼き尽くす装置を開発していた家老は、その力を自ら試した際に誤作動を起こし、自ら命を落としていたのだ。だが、装置を知る者は限られており、その背景には密貿易を巡る利権争いが絡んでいた。 吉宗は事件の裏に潜む悪人たちを暴き、厳しい裁きを下す。そして最後にこう締めくくった。 「余が治める江戸の平穏を乱す者は、この余自ら斬るのみよ。」 この言葉を発した吉宗の胸中には、江戸の平穏を乱されることへの怒りと、将軍としての使命感が激しく燃え上がっていた。事件の全容を明らかにし、平和を取り戻した達成感の裏で、彼はその責任の重さに静かに心を引き締めていた。 月明かりが江戸の夜を再び照らす中、吉宗の影は堂々と江戸城へと帰っていった。