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日常「500円玉貯金って、本当に貯まるのかな?」 机の上でくるくると回した500円玉を見つめながら、菜々美はつぶやいた。推し活を始めたのは半年前。友人に誘われて行ったライブで、推しの笑顔に完全に心を奪われた。それからというもの、グッズ、写真集、ライブ配信…次々と出費がかさみ、気づけば月の終わりにはお財布が寂しい状態だった。 「推しのためにお金を使うのは後悔してないけど、このままだと次のライブ遠征は無理かも」 そんな菜々美に、SNSで見かけた「推し活貯金」というワードが目に留まった。内容はシンプルで、「推し活のために専用の貯金箱を作り、無理のない金額をコツコツ貯める」というもの。多くの人が「500円玉貯金」からスタートしていると知り、菜々美も試してみることにした。 翌日、菜々美は100円ショップで透明の貯金箱を買った。帰宅後、箱に推しの写真を貼り、マスキングテープで可愛くデコレーション。「推し活貯金箱」と名付けたそれを、机の目立つ場所に置く。 「500円玉が出たらここに入れる。無理しない。これなら続けられるよね?」 最初の1枚を入れた時、硬貨が底に当たる音が響いた。それが何だか心地よくて、菜々美は小さく笑った。 それからというもの、菜々美は自然と500円玉を意識するようになった。コンビニでお釣りが500円になるように調整したり、小さな贅沢を我慢して500円を作ったり。最初は数枚だった貯金箱の中も、徐々に増えていく。 「これで次のライブチケット、取れるかも」 貯金箱を振ると、ジャラジャラとした音が響く。貯金の進捗をSNSに投稿すると、「無理せずコツコツやってるのが偉い!」「私も500円玉貯金始めようかな」といったリプライが返ってきた。それが、菜々美のモチベーションをさらに高めた。 数ヶ月後。ついに推しの全国ツアーの開催が発表された。菜々美はさっそく貯金箱を開け、中身を数える。予想以上に貯まっていて、ライブチケットだけでなく、遠征費もまかなえることが分かった。 「本当に貯まるんだ…!」 思わず笑みがこぼれる。その夜、菜々美はSNSに感謝の言葉を投稿した。 「みんなのおかげで推し活貯金、ちゃんとできました!これからも無理なく、コツコツ貯めて推しを応援していきます!」 ライブ当日。会場で推しが放った一言が、菜々美の胸に深く刻まれる。 「みんなが応援してくれるから、僕たちはここに立てています。本当にありがとう!」 その言葉に菜々美は涙した。「500円玉で作られたこの場所」が、自分と推しをつないでいる。そう感じながら、菜々美は力いっぱいペンライトを振り続けた。 推し活貯金の小さな一歩は、確かに大きな喜びを連れてくるのだ、と彼女は心から信じた。