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日常著者:
語りの灯火
あらすじ 忙しさに追われ、家族の時間をないがしろにしていた父・洋介。 ある日、長女・美咲が「家族でやりたいことリスト」を作り、家族全員で叶えていくことを提案する。 最初は戸惑いながらも、少しずつ家族の絆を取り戻していく洋介。 しかし、そんな中で妻・春香のある秘密が明らかになり……。 これは、バラバラになりかけた家族が“虹のような絆”を取り戻すまでの物語。 プロローグ 「ねえ、お父さん、私の話ちゃんと聞いてる?」 小学五年生の美咲は、朝食を食べながら新聞を広げている父・洋介を見つめた。 「聞いてるよ」 「じゃあ、なんて言った?」 「えっと……」 洋介は新聞を折りたたみ、娘の表情を見た。彼女の眉は不満そうにひそめられ、唇は少し尖っている。 「もう! やっぱり聞いてない!」 美咲はぷくっと頬を膨らませ、手に持っていたノートを広げた。 「これね、『家族でやりたいことリスト』!」 ノートのページには、カラフルなペンでいろいろなことが書かれていた。 みんなでキャンプに行く 手作りのピザを作る 夜、庭で星を眺める お母さんとお父さんがデートをする 「へえ、面白そうじゃないか」 「でしょ? 家族みんなで一緒にやるの!」 その言葉に、洋介は少し困ったように笑った。 「でも、パパは仕事が忙しいし……」 「そればっかり! この間も運動会、見に来なかったでしょ?」 美咲の声には、悲しさがにじんでいた。 その瞬間、妻の春香が優しく口を開いた。 「ねえ、洋介。たまには家族の時間、作ってみない?」 春香の穏やかな声に、洋介はふと考え込んだ。 第一章 「家族の冒険、始まる」 最初の目標は「みんなでキャンプに行く」だった。 洋介はアウトドアなどほとんど経験がなく、テントの張り方すら分からなかった。しかし、美咲と弟の悠人は大喜びで、テントの中に寝転んではしゃいでいた。 「見て、お父さん! 星がすごく綺麗!」 夜空を見上げると、満天の星が輝いていた。 春香がそっと洋介の手を握った。 「こういうの、いいでしょ?」 「……そうだな」 そのとき、久しぶりに心が温かくなるのを感じた。 第二章 「お母さんの秘密」 しかし、楽しい時間は長くは続かなかった。 ある日、美咲が春香の薬を見つけた。 「お母さん、この薬……」 春香は少しだけため息をつき、優しく微笑んだ。 「美咲には、話しておかなきゃね……」 実は、春香は軽い心臓の病気を抱えていた。普段は元気に見えるが、無理をすると倒れてしまう可能性がある。 美咲は震える声で言った。 「じゃあ……お母さん、ずっと元気じゃないの?」 春香は美咲を抱きしめた。 「大丈夫。お母さんはまだまだ元気。でも……だからこそ、大切な時間を無駄にしたくないの」 美咲は涙をこらえながら、強くうなずいた。 「じゃあ、もっともっと、家族でたくさんのことをしよう!」 最終章 「虹色の約束」 「次のリストは……“お母さんとお父さんがデートする”!」 「ええっ!?」 洋介と春香は顔を見合わせた。 「だって、お父さんとお母さんが仲良しだと、家族も幸せになるんだよ!」 恥ずかしがりながらも、洋介は久しぶりに春香と二人でデートをした。カフェでコーヒーを飲みながら、昔話に花を咲かせた。 「そういえば、昔もこんなふうに並んで座ってたな」 「ええ、あなたが必死に口説いてきたのを覚えてるわ」 春香の冗談めいた言葉に、洋介は照れ笑いを浮かべた。 「たまには、こういう時間もいいな」 こうして、「家族でやりたいことリスト」は少しずつ達成されていった。 キャンプ、ピザ作り、星空観察。どれも、小さなことだったかもしれない。 でも、その一つ一つが、家族の心をつなぎ直してくれた。 ある日、美咲は洋介に手紙をくれた。 「お父さんへ。 今までお仕事ばっかりだったけど、最近はたくさん一緒にいられて楽しいよ。 またみんなで、いろんなことしようね。 これからも、家族みんなで笑っていようね!」 洋介は目を細めながら、美咲の手紙をそっと胸にしまった。 「よし、次のリストも叶えるか」 そのとき、窓の外に大きな虹がかかっていた。 エピローグ こうして、家族の時間は戻ってきた。 そして、それはきっと、これからも続いていく—— まるで、雨上がりの空にかかる虹のように。 ──終わり。