君に会えるのは、あと3回

ジャンル:

恋愛

著者:

語りの灯火

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短編小説:君に会えるのは、あと3回

「私に会えるのは、あと3回だけ」

 夜の公園、ぼんやりと光る街灯の下で、彼女はそう言った。
 風に揺れる髪、懐かしい笑顔。けれど、その足元には影がなかった。

 「冗談、だろ?」
 「ううん。本当だよ」

 彼女の声は穏やかだった。まるで当たり前のことのように。
 けれど、俺は理解できなかった。なぜ、今さら目の前に現れたのか。
 あの日、確かに彼女は――。

1回目:笑顔

 「なんで笑ってるんだよ」
 「だって、久しぶりに会えたんだもん」

 俺は驚き、混乱し、それでも彼女の姿を焼き付けるように見つめた。
 長い髪を指で梳く仕草も、少し上を向いて話す癖も、変わっていない。

 「幽霊って、普通もっと怖いもんじゃないのか?」
 「私は怖がらせるために来たんじゃないよ」

 彼女は優しく笑う。
 それは、俺がいつも守りたいと思っていた、あの笑顔だった。

 「じゃあ、どうして?」
 「それは、3回目で教えてあげる」

2回目:涙

 次に彼女が現れたのは、一週間後の雨の日だった。
 俺は傘を持たずに歩いていて、気づけば彼女がいた。

 「また、会えたな」
 「うん……」

 彼女は泣いていた。
 雨なのか、涙なのか、よく分からなかった。

 「どうしたんだよ」
 「……ごめんね」
 「何が?」
 「あなたを、置いていってしまったこと」

 彼女は震える手で俺の頬に触れようとした。
 けれど、その手は触れることなく、すり抜ける。

 「あの時、もっと話したかった。もっと笑いたかった。もっと、あなたのそばにいたかった」

 彼女の言葉に、俺は何も言えなかった。
 胸が締めつけられるように痛かった。

3回目:最後の瞬間

 最後の再会は、満開の桜の下だった。
 春の風が優しく吹き、花びらが舞う。

 「これで最後なんだな」
 「うん」

 彼女は微笑んでいた。
 俺は、涙が出そうなのを必死にこらえた。

 「……俺は、ずっとお前のことが好きだった」
 「知ってるよ」
 「お前がいなくなってから、何も変わらない。ずっと、お前のことばかり考えてる」

 彼女は静かに目を閉じた。
 そして、ふっと囁いた。

 「あなたが私を見ていたのは……私が、あなたの中にいたからだよ」

 俺は、息をのんだ。
 桜の花びらが風に舞う。

 ――彼女が消えたあの日。
 俺は、あまりにも悲しくて、彼女のことを忘れないようにと願い続けた。
 その想いが、彼女を俺の前に現れさせたのかもしれない。

 最後に彼女が言った言葉が、胸に残る。

 「私がいなくなっても、あなたはちゃんと生きて。あなたの時間を、大切にして」

 気づけば、彼女の姿はもうなかった。
 ただ、桜の花が舞うばかりだった。

あとがき

 彼が彼女を見た理由。
 それは、彼が彼女を忘れられなかったから。

 想い続けることで、彼の心の中に彼女は生き続けた。
 そして、彼女は最後に言った。

 「もう、大丈夫だよ」

 その言葉を胸に、彼は前を向いて歩き出した。
 彼女の笑顔を、忘れないままに。


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