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旅果てしない砂丘を背に、レイは乾いた風を浴びながら歩みを進めていた。日差しは容赦なく、肌を刺すように焼き付けるが、彼の足取りは止まらない。風笛の伝承に刻まれた地図は、ぼんやりとした記憶に頼るしかなかった。それでも、レイの胸の奥には確信があった――この旅には意味があると。 「水を持っているか?」 背後から声がした。振り返ると、砂埃にまみれた青年が立っていた。布で覆った顔から覗く目は、疲れと焦燥に満ちていた。レイは慎重に青年を観察したが、敵意は感じられなかった。自分もこの過酷な環境で見知らぬ者を疑う余裕はない。 「少しだけなら。だが、分け合うのが条件だ。」 レイが差し出した水筒を受け取り、青年はわずかに微笑んだ。「感謝する。名はカイン。ここで人に会うとは思わなかった。」 カインは少しずつ水を口に含み、空を仰いだ。「君も『風笛』を探しているのか?」 その問いにレイは驚いた。風笛の話は伝説に過ぎず、普通の人々には興味のないものだ。しかし、この青年の言葉には確かな意志が宿っている。 「そうだ。だが、なぜお前がその名を知っている?」 カインは一瞬、答えをためらったようだったが、やがて重々しく口を開いた。「かつて、俺の村にも風笛の音色が響いていたという話を聞いた。だが、今やその音を知る者は皆いなくなり、村は干ばつで滅びかけている。俺はその音を取り戻したい。それが、この旅の理由だ。」 レイは目を細めた。彼の目的も似たようなものだった。風笛を再び奏でることで、衰えた自然と人間の調和を取り戻せると信じていた。 「ならば同行するか?この旅は厳しいが、一人よりはマシだ。」 カインは小さく頷き、二人は並んで歩き出した。彼らの前に広がるのは、無限の砂漠と不確かな未来。しかし、希望の欠片は確かにその足元に存在していた。 やがて、砂漠の向こうにぼんやりとした影が現れた。古い遺跡のように見えるが、近づくにつれて、奇妙な音が風に乗って耳に届く。 「これは……」カインがつぶやく。 レイは手をかざしてその音に集中した。かすかだが確かに響く音色。それは風笛のものだろうか?遺跡の中に何が待つのか、二人は答えを求めて足を速めた。 中に入ると、そこには風を受けて震える古びた機械があった。砂漠のど真ん中で、誰が何のために作ったのか分からないその装置は、静かな音楽を奏でていた。 「これが……風笛の源なのか?」 レイは慎重に装置に触れた。その瞬間、音が止まり、静寂が訪れた。カインが不安げに目を向けたが、レイは落ち着いていた。「まだ終わっていない。この装置は鍵の一部に過ぎない。旅は続く。」 レイとカインは再び歩き出した。遥か彼方、旅路の終わりに待つものを確かめるために。音楽と風に導かれながら、二人の旅は始まったばかりだった。