絶対に振り向いてはいけない夜

ジャンル:

ホラー

著者:

語りの灯火

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絶対に振り向いてはいけない夜

夜の帰り道、いつも通る細い路地を歩いていた。
街灯は壊れていて、辺りは薄暗い。
ひんやりとした空気が頬をなでる。遠くで車の音がするだけ。

そのとき——

「ねぇ、待って」

背後から、女の声がした。

ゾクリとする。
この時間、この道、誰もいるはずがない。
足を速める。

「待ってよ……ねぇ……」

声が近づいてくる。
足音はない。でも、確実に"何か"が迫ってくる気配がする。

ブルルッ——

スマホが震えた。
ポケットから取り出して画面を見る。

『絶対に振り向かないで』

心臓が跳ね上がる。
なんだこれ。誰が送った?
送信元は……不明。

足が止まりそうになる。
だが、そんなことをしたら"終わる"気がした。

ダッ——!

俺は全力で走り出す。
息が切れる。鼓動が激しくなる。
それでも、背後に感じる気配は消えない。

カツ、カツ、カツ。

背後から、確かに"足音"が聞こえる。

「ねぇ……」

耳元で囁くような声。
吐息がかかるほどの距離にいる。

ブルルッ——

スマホが震える。
恐る恐る画面をのぞく。

『走っても無駄。もう、すぐ後ろにいるよ』

呼吸が止まる。
全身が硬直する。

「振り向いてよ」

声が、真後ろで聞こえた。
耳元で、確かに囁いた。

指先が冷たくなる。
振り向いたら、何がいる?

足が動かない。
視界の端、スマホの画面が暗転する。

次の瞬間——

『あなたの後ろにも、いるよ』

その通知を見た途端、首筋に冷たい指が触れた。

——終わり。


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