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ミステリー著者:
語りの灯火
1. 通知
「あなたの世界は、あと10秒で消滅します。」
スマホに突如、そんな通知が届いた。
意味がわからない。悪質な広告か?
試しにアプリ一覧を確認するが、それらしいアプリはない。
通知を無視して消そうとしたが、画面に固定されていて消せない。
すると、カウントダウンが始まった。
10… 9… 8…
冷や汗が流れる。いたずらにしては悪質すぎる。
手が震え、スマホを落としかける。
周りを見渡すと、街の風景はいつも通り。
通勤する人々、歩道橋を歩く学生、犬を散歩させる老人。
だが、違和感があった。
まるで映像をスローで再生しているかのように、人々の動きが遅い。
いや、違う—— 俺だけが加速している?
7… 6… 5…
周囲の音が薄れていく。
耳鳴りがし、頭が割れそうに痛い。
俺はスマホを壁に投げつけた。
しかし、画面は割れずに宙で静止した。
4… 3…
心臓が跳ねる。息が詰まる。
スマホだけじゃない。
すべてのものが動きを止めつつある。
道端の猫が、ジャンプの途中で宙に浮いたまま固まっている。
踏切の遮断機が降りかけのまま、ピクリとも動かない。
車のタイヤは停止し、交差点の中で宙に浮いていた。
世界が——静止する。
2… 1…
俺の身体も、動かなくなる。
心臓の鼓動が消えていく。
視界がゆっくりと、闇に閉ざされていく。
0——
2. 目覚め
目を開けると、そこは白い部屋だった。
何もない、無機質な空間。
目の前に、俺と瓜二つの男が立っていた。
「……また、失敗か。」
男は溜息をついた。
その顔は俺と完全に同じだが、表情には疲れが滲んでいた。
「どういうことだ?」
俺は喉の奥から声を絞り出す。
男は答えず、壁の方へ歩いた。
白い壁がスクリーンになり、映像が映し出される。
そこには無数の俺がいた。
どれも、先ほどと同じように「カウントダウン」によって世界が停止し、意識を失う瞬間の俺たちだった。
その上にはこう表示されていた。
『シミュレーション No.2764 失敗』
「何を……している?」
俺の声は震えていた。
男はスクリーンを見つめたまま答えた。
「これは、人類を超越させるための実験だ。お前はただの『試作データ』にすぎない。」
「ふざけるな……!」
俺は男に掴みかかろうとするが——
身体が動かない。
腕も、足も、指一本すら動かせない。
ただ、硬直して立っているだけだった。
「お前の世界はプログラムだ。 その中で俺たちは試行錯誤を繰り返し、”完成形”を探している。だが——」
男が苦々しく呟く。
「お前もまた、失敗作だった。」
俺は叫ぼうとするが、喉が動かない。
身体が崩れるように、視界が再び暗くなる。
3. ループ
意識が戻った。
目の前には、いつものスマホの画面。
何気なく開くと、通知が届いていた。
「あなたの世界は、あと10秒で消滅します。」
カウントダウンが始まる。
10… 9… 8…
——デジャヴだ。
この光景を、俺は知っている。
でも、何かがおかしい。
俺は確かに、一度死んだはずなのに。
これは……何度目だ?
俺の意識は、確実に"繰り返して"いた。
また、世界が静止し始める。
今度こそ、止めなければならない。
このループを——終わらせなければ。
カウントダウンは止まらない。
7… 6… 5…