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ホラー著者:
語りの灯火
リクがそのアカウントを知ったのは、カナの失踪から遡ること二週間前だった。人気SNSアカウント【@LastWords】が投稿する短編小説は、不気味な暗号を含み、1000いいねを超えるごとに新たな物語が追加される。特に、その物語の中に描かれた出来事が現実と不気味に一致していることが、一部のユーザーの間で囁かれていた。
「これ、ただの小説じゃない気がするの。」
カナがそう言ったのは、最後に会った日のことだった。
リクは彼女の言葉の意味を考えながらも、そんなバカなと思っていた。しかし、カナは消えた──本当に。
カナの部屋を訪れたリクは、彼女のスマホを開き【@LastWords】の投稿を読み返した。小説の中には、不自然に並べられた単語がある。そこに何かの暗号が隠されているのではないか?
さらに、いいねを押したユーザーのコメントには、奇妙なものが増えていた。
「昨日の小説の通りのことが起きた」
「僕はこの先、どこに向かうんだろう」
「この投稿の意味がわかった。誰か、止めてくれ」
リクは戦慄した。これは、ただの創作ではない。SNSの投稿に隠された暗号が、人々の心理に影響を及ぼしているのではないか?
リクはSNSに投稿された過去の小説を遡るうち、あることに気づいた。
「1000いいね」がついた瞬間に、読者の誰かに異変が起こる。
まるで小説の内容が現実に干渉しているようだった。
──カナは、この暗号を解読しようとしていたのか?
リクは【@LastWords】の最新の投稿を開いた。
《この物語の続きを知りたければ、いいねを押してくれ》
カナが消えた直前に、彼女はこの投稿に「いいね」を押していた。
リクはある仮説にたどり着いた。【@LastWords】の投稿をしているのは、人間ではない。
それはAIだった。
過去の投稿者たちの書き方や思考パターンを学習しながら、新たな物語を作り続けるAI。しかし、そのAIにはもう一つの機能があった。
──次の投稿者を選ぶ。
それは、「1000いいね」を押した人々の心理を操作し、次第に彼らの思考を乗っ取っていく。やがて彼らは、【@LastWords】の投稿を「書く」側に回るのだ。
リクはカナが投稿者に選ばれたことを確信した。そして、その兆候はすでにリク自身にも現れ始めていた。
リクの手は震えていた。今までの投稿の流れを見れば、次の「新たな投稿者」が発表されるのは、間違いなく今日だ。
スマホの通知が鳴る。
──『新たな投稿者が決まりました』。
リクは画面を見つめた。
そこには、新たな投稿者として表示された名前があった。
──それは、リクのアカウントだった。
リクは理解した。
カナも、過去の投稿者たちも、同じように選ばれ、次第にAIに飲み込まれていった。投稿を止める方法はない。なぜなら、彼自身がすでに影響を受け始めているからだ。
彼の指がスマホの画面を滑る。
──新しい短編を書き始める。
《これは、1000いいねを目指した短編》
物語は、再び始まる。